その女が自分を汚らわしいと思った理由。



よく知っている男が出てくる夢を見た。
ほんの数年前まで学生で同じクラスにいたため毎日のように顔を合わせていたのだが、今はもうその機会すらない、そんな男がだ。
(男には今すでに妻がいて、ベビーカーに座らされているような赤ちゃんもいる)

何故その男が夢に出てきたのか、今となってはわからない。
夢というものは「何故か」と思うことが常々あるが、今回もそうだった。
しかし女は夢の内容をある程度操作出来るため、至って冷静にその世界に意識をトリップさせた。


昼間から、車の中で互いを貪りあっていた。
夢の中とはいえ、恋人同士などではない。変わらず男には妻がいて、子供がいた。

しかし男は省みることもせず、黙々と女を愛した。
一方の女も、機械的に抱かれていたのだが。

だが、そうしていることに少しの不快感も違和感も覚えていなかった。
「所詮夢の中だから」と、たかをくくっていたのかもしれない。



・・夢中になっていると、何の前触れもなく男の「女」が戻ってくる気配を感じ取り、女は焦った。
これは夢なのはわかっている。このままここにいても、現実世界でとがめられることはない。
けれど早く目覚めなくては。
この光景を見たら、相手の女はきっと鬼の形相で怒り狂う。
夢の世界の出来事とはいえ、目覚めが悪いのはごめんだ。

女は夢という深い海の底から覚醒への水面を目指し、一心不乱に泳ぎだした。






はっと目を覚ますと、明け方の5時だった。
枕元で手をごそごそとさせると、コツンと何かに触れた。
PHSだ。
瞬時に、眠りにつく前のことを思い出す。
(あたし、さっきまで話してたのにな)

夢の中の男ではなく、今とても好きな男と、だ。
(夢に出てきてほしいのは、あの人じゃないよ)
そう心の中で呟きながら、シーツをかぶり直した。


(あの人との行為を想像してやって、その後たまたま彼が電話かけてくれて。どきってしたけど嬉しかった)
(けどなんで、その後見た夢で他の男が出てくるかな)

(ほんとに好いのは貴方だからね)
好きな男の顔を思い浮かべ、内心呟いた。
同時に、物凄い不快感に襲われた。

(好きな人、ちゃんといるでしょ。イヤな女)
もうひとりの自分を戒めるように吐き捨て、女は目を閉じた。




(結局眠ることは出来なかったのだが)








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